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賃貸・アパートでは、大家が太陽光を設置し入居者が電気代の恩恵を受けるケースと、入居者自身が設置を試みるケースの2パターンがあります。後者は大家の許可が前提で、退去時のトラブルを避けるには書面での合意が欠かせません。設置が難しい場合はポータブル電源などの代替案も選択肢になります。
賃貸・アパートに住んでいると太陽光は使えない?
賃貸住宅への太陽光設置、方法は2パターン
賃貸物件で太陽光に関わるパターンは、大きく2つに分けられます。1つは大家(オーナー)が建物に太陽光を設置し、入居者がその恩恵を受けるケース。もう1つは、入居者自身がベランダなどに設置を試みるケースです。前者は近年、後押しする公的な制度も出てきており、後者は法律上・実務上のハードルが高めです。それぞれ詳しく見ていきましょう。大家が太陽光を設置する場合
大家が太陽光を設置する場合、初期費用は基本的に大家(オーナー)が負担します。近年は、賃貸住宅の脱炭素化を後押しする公的な助成制度も整いつつあります。たとえば東京都は、賃貸住宅の1棟所有者を対象に、太陽光発電と低圧電力一括受電を組み合わせて各住戸へ再エネ電力を供給することを要件とした助成事業を実施しています。この仕組みが使われている物件では、入居者の電気料金が下がる可能性があります(※1)。
ただし供給方法や料金設定は物件やサービス提供会社によって異なり、必ずしも大幅な節約になるとは限りません。入居前に「太陽光の電気がどう供給されるか」「料金プランはどうなっているか」を不動産会社に確認しておくと安心です。
※出典1:東京都環境局・公益財団法人東京都環境公社「賃貸住宅の断熱・再エネ集中促進事業 令和7年度助成事業の受付期間、令和8年度事業概要(案)等について」(2026年3月11日)
入居者自身が太陽光を設置する場合
入居者が自分だけの判断でベランダや屋根に太陽光を取り付けることは、原則としてできません。賃貸住宅標準契約書では、増築・改築・移転・改造・模様替えや敷地内への工作物の設置などについて、貸主の書面による承諾を得ることとされています(※2) 。無断で設置すると、契約違反として原状回復や損害賠償を求められるおそれもあります。設置を検討する場合は、まず大家や管理会社に相談し、承諾を得られるかどうかを確認しましょう。ただし現実には、建物への穴あけや配線工事を伴う本格的な設置は、集合住宅の構造上、許可が下りにくいのが実情です。
※出典2:国土交通省「賃貸住宅標準契約書」について(増改築等承諾書のひな形を含む)
実例で見る「太陽光付き賃貸」の広がり
国内初、全戸に太陽光を導入した賃貸マンション
福岡県北九州市の賃貸マンション「ニューガイア上石田」は、経済産業省・シャープ・九州電力の協力のもと、新築時から太陽光発電設備を全戸に組み込む設計で2005年2月に完成しました(※1)。従来、賃貸マンションへの太陽光導入といえば共用部分の電力をまかなう程度にとどまるケースが多かったのですが、このマンションでは共用部だけでなく各住戸にも個別に太陽光を導入し、余剰電力は電力会社への売却に加えて、日中の電力需要が少ない共働き世帯から在宅時間の長い世帯へ融通する仕組みも整えています。国土交通省の事例集(完成から数年後の調査時点のデータ)によると、一般的な家庭の月々の光熱費が16,000円、オール電化住宅で約9,000円であるのに対し、このマンションでは売電分を加味すると約4,500円――一般家庭比で約70%の光熱費削減が実現していたと報告されています。さらに同プロジェクトの1棟では、相場より家賃を10%高く設定していたにもかかわらず稼働率は常に100%で、入居待ちが出ていたとも記録されています(いずれも当時の調査結果)。
※出典1:国土交通省「太陽光発電を活用した環境マンション(ニューガイア上石田)」
大手企業の太陽光展開と、東京都の後押し
太陽光付き賃貸は、単発の事例にとどまりません。国土交通省の関連事業では、積水ハウスの低層賃貸住宅プロジェクトが「省CO2型低層賃貸住宅普及プロジェクト」として採択され、太陽光発電を活用した入居者・オーナー双方のメリット(入居率アップ、家賃設定による初期投資の早期回収など)を実証する取り組みが進められました(※2)。また大手ハウスメーカーの中には、賃貸住宅への太陽光搭載をさらに積極的に進める動きもあります。大東建託は2022年から賃貸住宅の屋根への太陽光設置を進めており、2030年までに設置棟数1万5,000棟を目標に掲げているとの報道があります(※3)。
こうした流れを後押ししているのが、東京都の制度です。2025年4月から、都内で年間2万㎡以上の新築建物を供給する大手事業者には、新築建物への再生可能エネルギー利用設備の設置などが義務付けられました。東京都環境局の資料によると、この対象事業者は都内大手住宅メーカー約50社の見込みで、都内の年間新築着工件数(約4万5,000件)のうち、実に半数程度がこの制度の対象になるとされています(※4)。今後、賃貸物件を含めて「太陽光あり」が当たり前になっていく可能性は十分にあります。
※出典2:国立研究開発法人建築研究所「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)平成23年度(第1回)事業概要——積水ハウス株式会社『省CO2型低層賃貸住宅普及プロジェクト』」
※出典3:大東建託「サプライチェーン向けに再エネ由来のカーボンクレジット提供開始」
※出典4:東京都環境局「環境確保条例改正のポイント(太陽光発電設備関連)」
退去時の扱い——設備は誰のもの?原状回復義務との関係
大家が設置した設備の場合
大家(オーナー)が設置した太陽光発電設備は、そもそも大家の持ち物です。入居者が退去しても設備はそのまま建物に残り、次の入居者もその恩恵を引き継ぐことができます。入居者側で何かする必要はありません。入居者自身が設置した設備の場合
入居者が太陽光を設置するには、あらかじめ大家の許可を得ることが前提です(第2章参照)。無許可で設置した場合は、退去時に取り外すだけでなく、契約違反として原状回復や損害賠償を求められるおそれもあります。許可を得て設置していた場合でも、退去時の設備の扱いは、賃貸借契約や設置時の合意内容によって異なります(※1)。法律上は、貸主の同意を得て建物に付加した「造作」について、賃貸借終了時に時価での買取りを請求できる「造作買取請求権」が認められています。ただし、実際の賃貸借契約には、あらかじめこの請求権を入居者から放棄させる一文が盛り込まれているのが一般的 です(※2)。 つまり「許可はもらったから安心」と思っていても、実際に買い取ってもらえるとは限らない、というのが現実なのです。
実務でいちばん確実なのは、設置する前に大家から書面で許可をもらっておくこと、そして退去時にどうするか(撤去するのか、買い取ってもらえるのか)を契約書にはっきり書いておくことです(※3)。「口約束」だけだと、退去時にもめる原因になります。
※出典1:法務省・日本法令外国語訳データベース「借地借家法」第33条
※出典2:法務省・日本法令外国語訳データベース「借地借家法」第33条(造作買取請求権、特約による排除の可否)
※出典3:国土交通省「賃貸住宅標準契約書」について(増改築等承諾書のひな形を含む)
設置が難しい場合の代替案——ポータブル電源・ベランダ発電という選択肢
1つはポータブル電源です。ソーラーパネル付きのモデルを選べば、日中に充電した電気を停電時や節電に使えます。工事不要で、退去時の原状回復も気にする必要がありません。もう1つは、置くだけ・立てかけるだけで使えるベランダ用の小型太陽光パネルです。
いずれも大規模な太陽光発電ほどの発電量は期待できませんが、賃貸ならではの制約を回避しながら太陽光の恩恵を受けられる方法です。なお、建物に穴を開けないこれらの製品でも、共用部の使用ルールなどに関わる場合があるため、事前に大家や管理会社へ確認しましょう。