2025年08月27日

非化石証書「意味ない」はホント?仕組みの課題と真のメリットを解説
環境価値取引において「非化石証書は意味ない」という声が一部で囁かれています。この議論の背景には、非化石証書の仕組みや実際の効果に対する疑問が存在します。この記事では、こうした批判の根拠を検証し、非化石証書の真の価値について解説していきます。
目次
非化石証書が意味ないといわれる根拠とは
非化石証書が「意味ない」とされる主な根拠は、制度設計の構造的問題にあります。 高度化法との結合による大手電力会社への利益移転、原子力混入による電源不明問題、国際標準からの乖離(かいり)など、複数の課題が指摘されています。これらの批判は果たして妥当なのでしょうか。
非化石証書の仕組み
非化石証書の仕組みは、従来の電力供給とは異なる構造を持っています。
通常の電力取引では、電力(kWh)と環境価値が一体となっていますが、前述したように非化石証書制度では両者を分離して取引します。
具体的な流れとして、まず非化石電源(太陽光、風力、原子力など)から発電された電力について、その環境価値部分を証書として発行します。発行された証書は、電力取引所や相対取引を通じて市場で売買されます。
購入企業は、この証書を保有することで、自社の電力使用に伴うCO2排出量をゼロとして算定できるようになります。
この仕組みの最大の特徴は、電力の物理的な流れと環境価値の流れを切り離している点です。そのため、企業は地理的制約や供給量の制限に関係なく、必要な環境価値を調達することができます。
非化石証書が導入された背景
非化石証書制度の導入には、複数の政策的背景が存在します。最も重要な要因は、エネルギー高度化法(エネルギー供給構造高度化法)の存在です。この法律により、小売電気事業者は非化石電源比率を段階的に引き上げることが義務付けられています。
2025年には44%という高い目標が設定されており、小売電気事業者にとって非化石電源の確保は重要な課題となっています。しかし、物理的な再エネ電力の調達だけでこの目標を達成するのは困難な状況にあります。
また、温暖化対策の観点からも、CO2削減に向けた取り組みの促進が求められています。
企業の温室効果ガス削減目標達成や、国際的な環境イニシアチブへの対応において、非化石証書は重要な手段として位置付けられています。
非化石証書の目的と役割
非化石証書制度の主要な目的は、再エネ普及の促進と電力市場の効率化です。
証書の売却収入が再エネ発電事業者の収益向上に貢献し、新規投資や設備拡大を後押しする効果が期待されています。
また、企業にとっては環境価値の調達手段として重要な役割を果たしています。RE100などの国際的な環境イニシアチブへの参加や、投資家からの環境配慮要求への対応において、非化石証書は有効なツールとなります。
さらに、エネルギーの安定供給という観点からも、多様な電源の活用を促進する仕組みとして機能しています。
化石燃料への依存を減らし、エネルギー安全保障の向上に寄与することも期待されています。
非化石証書の種類と用途
非化石証書は発電源により3種類に分類されます。
- FIT非化石証書は太陽光・風力などFIT対象電源由来で、価格が安くRE100に活用できますが、高度化法には使用できません。
- 非FIT非化石証書(再エネ指定あり)は大型水力やFIT卒業電源由来で、高度化法とRE100の両方に対応しますが価格は高めです。
- 非FIT非化石証書(再エネ指定なし)は原子力・大型水力・廃棄物発電由来で供給量が多く価格も安定していますが、RE100では使用できません。企業は環境目標とコストを考慮して最適な証書を選択することが重要です。
非化石証書についてもっと知りたい場合は、 非化石証書とは?価格とFIT非化石証書、取引市場までわかりやすく をご覧ください。
非化石証書は本当に意味ない?を検証

「非化石証書は意味ない」という見解について、客観的な視点から検証してみましょう。 この議論の核心には、証書制度の実効性や真の環境価値について疑問があります。
制度設計の根本的課題とは
高度化法との結合による弊害
非化石証書制度の最大の問題は、小売電気事業者の非化石電源比率目標達成(2030年度に44%以上)を主目的として設計されていることです。海外では自然エネルギーの環境価値証明・取引が証書制度の本来の目的ですが、日本では異なる目的で作られてしまいました。
この結果、大手電力会社が保有する大型水力や原子力の環境価値を新電力に売却する手段として機能しており、健全な競争環境を阻害している状況が生まれています。自然エネルギー財団の分析によると、2021年5月の取引では非FIT非化石証書の約定量がFIT非化石証書の10倍以上となっており、大半が既存の大型水力と原子力由来と考えられています。
国際標準からの乖離
国際的には、企業の自然エネルギー調達を支援する証書制度が主流となっています。欧州の発電源証明(GoO)や北米の自然エネルギー証書(REC)では、需要家が発電事業者から直接証書を購入できる仕組みが整備されており、企業のコーポレートPPA(電力購入契約)も活発に行われています。
一方、日本の非化石証書は複雑で分かりにくい制度となっており、需要家による活用は付随的な扱いに留まっています。これが「意味ない」という批判の一因となっています。
非化石証書とRE100
RE100とは
RE100(Renewable Energy 100%)は、企業が事業運営で使用する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目指す国際的なイニシアチブです。現在、世界で400社を超える企業が参加しており、日本からも多くの大企業が参加しています。
RE100では、再エネ電力の調達方法として複数のオプションを認めています。直接的な再エネ電力の購入、再エネ証書の購入、オンサイト再エネ設備の導入などがその例です。非化石証書のうち、再エネ指定のあるものはRE100の要求を満たす手段として認められています。
参加企業にとって、RE100達成は投資家や顧客からの評価向上、サプライチェーン参加の条件となる場合もあり、ビジネス上の重要な取り組みとなっています。
これらのことからも、非化石証書は実用的な価値を持つ「意味ある」ツールとして機能しています。
トラッキング付証書の重要性と現状
ただし、RE100などの国際イニシアチブでは、発電所の属性情報が確認できる「トラッキング付」の証書が要求されます。これにより、どの発電所で、いつ、どのような方法で発電された電力の環境価値かが明確になります。
日本では段階的にトラッキング対象が拡大されてきました。2021年度からFIT非化石証書の全量トラッキングが開始され、2024年度からは非FIT非化石証書も含めて全ての非化石証書にトラッキング情報が付与されるようになりました。これは大きな制度改善といえます。
ただし、課題も残されています。
トラッキング情報では「発電種別」と「運転開始後15年未満」の指定は可能ですが、具体的な発電所の特定までは難しい場合があります。また、非FIT非化石証書(再エネ指定なし)では原子力と大型水力の区別ができないため、企業が望む特定の電源種別での調達には限界があります。さらに、トラッキング機能の充実に伴い費用負担の見直しも行われており、企業の調達コストに影響を与える可能性があります。
エネルギーと環境をめぐる国際情勢
国際的な環境規制の強化や、投資家によるESG投資の拡大により、企業の環境対応は従来以上に重要性を増しています。
CSRD(企業持続可能性報告指令)などの新たな開示規制も導入され、企業の環境情報の透明性が求められています。
このような状況下で、非化石証書は企業の環境対応を支援する重要な手段として位置付けられています。
特に、物理的な再エネ電力の調達が困難な企業にとって、環境価値を確保する現実的な選択肢となっています。
また、カーボンニュートラルに向けた取り組みが世界的に加速する中、企業のCO2削減努力の可視化・定量化においても、証書制度は有効な仕組みとして評価されています。
制度改革への提言
専門家からは、非化石証書制度の抜本的な見直しが提言されています。具体的には:
- 高度化法との切り離し:証書制度を高度化法の目標達成手段から切り離し、純粋な環境価値取引制度とする
- 自然エネルギー限定:原子力を除外し、自然エネルギーのみを対象とした証書制度への転換
- 需要家の直接参加:企業が発電事業者から直接証書を購入できる仕組みの構築
- トラッキングの充実:全ての証書で発電源の属性情報を明確化
これらの改革により、海外と同等の透明で使いやすい証書制度の実現が期待されています。ただし、その実現には政策立案者の意思決定だけでなく、企業や消費者が制度の課題を正しく理解し、建設的な議論に参加することが不可欠です。
非化石証書から企業が得るメリットとは
企業が非化石証書を活用するメリットは、主に3点挙げられます。
第一に、地理的制約なく市場から環境価値を柔軟に調達できることです。これにより、全拠点で統一された環境方針を効率的に実現できます。物理的な再生可能エネルギー電力の導入に比べ、コストを比較的抑えやすい点も魅力です。
第二に、企業のブランド価値向上への貢献です。RE100への参加や温室効果ガス削減目標の達成を対外的に示しやすくなり、ESG投資の拡大を背景に投資家や顧客からの評価向上につながります。
第三に、サプライチェーン全体での環境対応です。取引先からのグリーン調達要求にも応じやすくなり、企業の競争力を高める戦略的な手段となります。
非化石証書は意味ない?デメリットや注意点
一方で、非化石証書制度にはいくつかのデメリットや課題が指摘されています。 最も根本的な批判は、「追加性」の欠如です。既存の再エネ設備から発行される証書では、新たな再エネ投資を促進する効果が限定的だという指摘があります。
非FIT証書の電源不明問題と原子力混入リスク
特に深刻な課題として、非FIT非化石証書(再エネ指定なし)におけるトラッキングの不透明性があります。この種類の証書には、大型水力発電だけでなく原子力発電やゴミ発電による環境価値も含まれているため、購入企業が意図せずに原子力由来の環境価値を取得してしまう可能性があります。
これは環境意識の高い企業にとって重大な問題です。例えば、脱原発を企業方針として掲げている会社が、知らずに原子力由来の非化石証書を購入してしまうリスクがあります。現状では、どの発電所から発行された証書なのかが特定できないため、企業の環境方針と矛盾する結果を招く恐れがあります。
制度の複雑性と国際標準からの乖離
2024年度から全量トラッキングが実現したものの、課題も残されています。発電種別の指定は可能ですが、具体的な発電所の特定には限界があり、原子力と大型水力の区別ができない証書も存在します。
海外では欧州のGoOや北米のRECのように、1000kWh単位で発電源が明確に特定できる証書制度が確立されています。
これに対し、日本の非化石証書は種類が複雑(FIT・非FIT、再エネ指定の有無など)で、企業担当者が適切な選択を行うことが困難な場合があります。
また、価格変動リスクも注意点です。市場の需給により証書価格は変動し、特に高度化法対応に必要な証書は価格高騰の可能性があります。さらに、証書制度では電力と環境価値を分離するため、実際の再エネ電力使用とは異なり、「グリーンウォッシュ」との批判を受けるリスクもあります。
グリーンウォッシュとは |
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実質的な環境改善を伴わずに、表面的に環境に配慮しているように見せかける行為のこと。非化石証書の場合、物理的には従来通りの電力を使用しながら、証書購入により「環境に優しい」と主張することが、この批判の対象となることがある。 |
非化石証書とFITの関係
非化石証書制度とFIT制度の関係は複雑で、多くの企業が混乱する要因の一つとなっています。
両制度の関係性を正しく理解することで、より効果的な活用が可能になります。
FIT制度は再生可能エネルギーの普及促進を目的とした政策であり、発電事業者に対して長期間の固定価格での買取を保証しています。この制度により、再エネ投資のリスクが軽減され、日本の再エネ普及が大幅に進展しました。
しかし、FIT制度による買取費用は、電気料金に含まれる再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)として国民が負担する仕組みになっています。そのため、FIT電源から発生する環境価値についても、既に国民が費用負担しているという考え方が政策的に採用されています。
FIT非化石証書が高度化法に使えないってホント?
FIT非化石証書がエネルギー高度化法の義務履行に使用できないという制限は、多くの企業にとって理解しづらい仕様となっています。
この制限の背景には、二重利得の防止という政策的配慮があります。
具体的には、FIT制度により既に国民負担で支援されている電源について、さらに小売電気事業者の義務履行にも活用することは、制度趣旨に反するという判断がなされています。このため、FIT非化石証書は高度化法の非化石電源比率には算入されません。
制度変更による新電力への影響
2021年の制度見直しにより、FIT非化石証書は「再エネ価値取引市場」、非FIT非化石証書は「高度化法義務達成市場」に分割されました。この結果、新電力は高度化法達成のために高価な非FIT証書を購入する必要がある一方、安価になったFIT証書は高度化法に使用できません。
大手電力会社が既存設備から安定的に非FIT証書を調達できるのに対し、新電力は市場から高価な証書を購入せざるを得ず、競争環境の公平性に課題が生じています。
本来のあるべき姿への提言
自然エネルギー財団は、非化石証書と高度化法を切り離し、海外と同様の自然エネルギー証書制度に移行することを提言しています。
現在のように大型水力や原子力を含む「非化石」という枠組みではなく、純粋に自然エネルギーのみを対象とした証書制度にすることで、より透明で公平な仕組みが実現できるとしています。
このような制度改革が実現すれば、FIT・非FIT区別なく自然エネルギー由来の証書として統一的に扱われ、企業の環境調達がより単純明快になるでしょう。
また、高度化法の制約から解放されることで、需要家と発電事業者の直接取引も可能となり、市場の活性化が期待できます。
ただし、現在の制度制約下においても、FIT非化石証書は企業にとって重要な価値を持っています。RE100対応や自主的な環境取り組みに活用でき、価格が相対的に安価であることから、コスト効率のよい環境価値調達手段として評価されています。完璧な制度を待つよりも、今できることから始めることで、企業の環境目標達成への着実な一歩を踏み出すことができるでしょう。
非化石証書を企業が取り入れるには?
企業が非化石証書を活用するためには、まず自社のニーズと目標を明確にすることが重要です。RE100対応、温室効果ガス削減、エネルギーコスト管理など、複数の観点から最適な戦略を構築する必要があります。
非化石証書を購入できる電気小売事業者
非化石証書の購入方法として、最も一般的なのは電気小売事業者を通しての調達です。
多くの小売事業者が、電力供給とセットで証書付きのプランを提供しています。
東京電力や中国電力などの大手電力会社をはじめ、新電力会社でも証書付きプランが充実してきています。企業は、電力契約の乗り換えと同時に環境価値を取得することが可能です。
選択の際には、証書の種類(FIT・非FIT、再エネ指定の有無)、価格、供給安定性などを総合的に評価することが重要です。また、契約期間や価格変動リスクについても事前に確認し、自社の事業計画に適したプランを選択することが求められます。
中小企業にとっては、電気料金の上昇を抑制しながら環境価値を取得できる事業者を探すことが重要です。証書付きプランの価格構造を詳しく知り、自社の電力使用パターンに合った会社を選択することで、負担を最小限に抑えながら環境対応が可能になります。
エネブリッジの環境価値
エネブリッジなど電気小売事業者による証書調達も、企業にとって有効な選択肢です。電力会社の切り替え不要で、必要な分だけ購入できるため、初期費用をかけずに脱炭素経営を始められます。
エネブリッジは自社発電所から環境価値を創出しており、安定的に証書を供給できる点が特徴です。
FIT非化石証書とJ-クレジットの両方を扱い、RE100やCDP、温対法など様々な環境基準に対応しています。
契約期間の縛りがなく、1回のみの購入も可能で、相談料も無料です。特に中小企業にとっては、証書制度の複雑さを専門事業者に任せることで、効率的に環境価値を調達できる現実的な手段となるでしょう。
まとめ
ここまで非化石証書について「意味ない」という視点から、様々な見解をお伝えしました。一部で批判があることは事実ですが、制度の目的と効果を総合的に評価すると、複雑な現実が見えてきます。
最終的に「意味がない」かどうかは、制度をどう活用し、どう改善していくかにかかっています。
現状の課題を認識しつつ、建設的な制度改革を進めることで、真に効果的な環境価値取引制度の実現が期待されます。
企業は制度の特性と限界を理解し、戦略的に活用することで、環境と事業の両立を図ることができるでしょう。
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