2024年08月15日
次世代のエコ燃料、合成燃料で経済性と環境負荷の軽減を実現
気候変動対策が求められる現代において、エネルギー分野でCO2排出削減に寄与する新しい燃料として注目されているのが「合成燃料(e-fuel)」です。合成燃料は、主に二酸化炭素と水素を化学的に合成して作られる燃料の総称です。石油や天然ガスといった従来の化石燃料とは異なり、合成燃料はカーボンニュートラルな特性を持ち、再生可能エネルギーを活用することで持続可能な社会の実現に寄与します。
目次
次世代の燃料として注目される合成燃料とは
合成燃料は、水素と二酸化炭素(CO2)を合成して製造された燃料で「人工的な石油」とも呼ばれています。従来の化石燃料と同様に、エンジンやボイラーで利用することができます。 この燃料が生まれた背景には、化石燃料の使用による環境負荷の軽減を目的とし、特に気候変動対策の一環として注目されるようになりました。
日本のエネルギー政策と合成燃料の位置付け
日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げており、その達成に向けて、さまざまな新エネルギー技術の開発が進められています。合成燃料は、その中でも特に注目されている技術の一つです。再生可能エネルギーの活用を最大化するためには、エネルギーの貯蔵や輸送が重要な課題となります。合成燃料は、こうした課題を解決する手段として、政府のエネルギー政策の中で重要な役割を果たしています。
合成燃料 e-fuelの製造方法
合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を原料として製造されるクリーンな燃料です。 まず、CO2は発電所や工場の排気ガスから回収されるか、大気中から直接取り出されます。 一方、水素は水の電気分解によって生成され、特に再生可能エネルギーを利用した「グリーン水素」が理想的です。これらの原料を反応させて、炭化水素を合成します。この炭化水素は、ガソリンやディーゼルなどの従来の化石燃料と同様の特性を持ち、既存のエンジンやインフラで使用可能です。
合成燃料の活用方法
航空業界における利用
航空業界では、CO2排出削減のために液体合成燃料の利用が進んでいます。従来のジェット燃料に代わり、合成燃料を使用することで、航空機からのCO2排出を大幅に削減することが可能です。また、既存の航空機やインフラをそのまま利用できるため、導入が比較的容易です。
- コラム
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合成燃料のエネルギー密度が高い!エネルギー密度とは、燃料が持つエネルギーの量を示す指標です。具体的には、単位体積(リットル)や単位質量(キログラム)あたりにどれだけのエネルギーが含まれているかを表します。エネルギー密度が高いほど、少ない量で多くのエネルギーを得ることができます。 合成燃料は、エネルギー密度の面で非常に優れており、既存の化石燃料と同等の性能を持っています。そして、水素や電気よりも少量で多くのエネルギーを供給できる特長があるため、既存のインフラや設備で、合成燃料を使用するメリットが大きいのです。
自動車産業での応用
自動車産業でも、液体合成燃料は将来の有力な燃料の一つとして注目されています。特に、電動化が難しい大型車両や長距離トラックでは、合成燃料の利用が期待されています。また、ガソリンエンジン車の延命措置としても利用が検討されています。
海運産業での利用
船舶においても、合成燃料は有望な代替燃料です。特に長距離航行を行う貨物船などでは、合成燃料を使用することで、海洋汚染の軽減とCO2排出量の削減が期待されます。
発電所や産業用途
合成燃料は発電所でも利用可能です。特に、既存の火力発電所で従来の化石燃料に代わって使用することで、CO2排出量を大幅に削減することができます。再生可能エネルギーの導入が進むまでの過渡期においても、持続可能なエネルギー供給が可能となります。
また、産業分野でも合成燃料の活用が進んでいます。特に、鉄鋼や化学工業などの高エネルギー消費産業では、合成燃料を使用することで、CO2排出量を削減しつつ、安定したエネルギー供給を実現することができます。
エネルギー貯蔵システムとしての利用
液体合成燃料は、エネルギーの貯蔵手段としても重要です。再生可能エネルギーの余剰電力を利用して燃料を合成し、必要に応じて使用することで、エネルギー供給の安定性を確保できます。これにより、電力系統全体の安定性が向上します。
合成燃料、e-fuel、液体合成燃料、気体合成燃料の違い
合成燃料にはさまざまな種類があり、その製造方法や用途に応じて分類されます。以下に、合成燃料、e-fuel、液体合成燃料の違いについて詳しく解説します。
<出典:資源エネルギー庁>
合成燃料=総称
合成燃料は、一般的に化石燃料以外の方法で炭素と水素を合成して作られる燃料を指します。これには、再生可能エネルギーを利用して生成された水素と、CO2を原料とするものが含まれます。合成燃料には固体、液体、気体の形態があり、それぞれ異なる用途に利用されます。たとえば、合成ガス(合成燃料の一種)は、発電や化学産業で利用されます。
e-fuel
e-fuelは、合成燃料の中でも、再生可能エネルギー(風力、太陽光など)を利用して生成された水素を使用して作られる燃料です。e-fuelは、電力を用いて水を電気分解して得られる水素と、回収されたCO2を反応させることで生成されるため、カーボンニュートラルなエネルギーサイクルを実現します。e-fuelの特徴は、その製造過程で使用されるエネルギーが100%再生可能であることです。
液体合成燃料
液体合成燃料は、合成燃料の中でも液体の形態を持つものを指します。代表的なものに、メタノール、ディーゼル、ケロシンなどがあり、これらは主に輸送用燃料として利用されます。液体合成燃料は、既存の燃料インフラを利用できるため、輸送や保管が比較的容易です。また、液体燃料の形態は、航空機や船舶、自動車などの燃焼エンジンでの利用が想定されており、化石燃料の代替としての役割を果たします。
気体合成燃料
気体合成燃料は、メタネーションプロセスを通じて生成されるメタンなどの気体燃料です。既存のガスインフラをそのまま利用できるため、新たな設備投資が不要です。エネルギー密度は液体燃料に比べて低いものの、長距離輸送や大規模なエネルギー貯蔵に適しています。気体合成燃料は、特に長距離輸送や大規模なエネルギー貯蔵において有望な技術とされ、経済的なメリットも大きいです。
合成燃料の環境に対するメリット
環境負荷が低く、カーボンニュートラルに貢献する
合成燃料の最大のメリットは、カーボンニュートラルであることです。CO2を合成燃料の原料として再利用するため、全体として大気中のCO2濃度を増加させません。特にe-fuelは、再生可能エネルギーを利用することで、製造過程においてもカーボンフットプリントが非常に低く抑えられます。
また、液体合成燃料は、化石燃料に比べて環境負荷が非常に低い特長があります。特に、燃焼時に排出される硫黄分や重金属分が少なく、クリーンな燃料として利用できます。
既存インフラの活用
液体合成燃料は、従来の化石燃料と同様に既存のインフラで使用できるため、新たなインフラ投資が不要です。例えば、ガソリンスタンドや工場の設備を大幅に変更することなく利用可能であり、導入コストが低く抑えられます。
資源国以外でも製造可能
液体合成燃料は、化石燃料のように特定の資源国に依存せず、どの国でも製造が可能です。特に日本はエネルギーの多くを輸入していることから、合成燃料を製造するメリットが非常に大きいと言えます。このように、エネルギーの供給源を多様化し、エネルギー安全保障を強化することができます。
生物多様性への配慮
化石燃料の使用は、気候変動だけでなく、生物多様性にも悪影響を及ぼしています。森林伐採や石油採掘による生態系の破壊は、多くの種の絶滅を加速させています。一方で、液体合成燃料の普及は、石油や天然ガスの採掘に伴う環境破壊を防ぐことから、生態系への負荷を大幅に軽減する可能性があります。
再生可能エネルギーの有効活用
合成燃料の製造には、再生可能エネルギーが欠かせません。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの過剰供給時に、そのエネルギーを効率的に利用できます。特に、電力需要が低い時間帯に余剰電力を使用して水素を生成し、これを合成燃料に変換することで、エネルギーの貯蔵と安定供給が可能となります。
合成燃料のデメリット
コストの高さ
現在、合成燃料の製造コストは依然として高く、化石燃料と比較して競争力に欠ける点が課題です。再生可能エネルギーを利用した水素生成やCO2回収のコストも高いため、大規模な商業化には技術革新とコスト削減が必要です。
エネルギー効率の課題
液体合成燃料の生成過程では、多くのエネルギーが消費されます。特に、水素を生成するための電気分解は太陽光発電が使われますが、既存の化石燃料を使用して生み出すよりもエネルギー効率が低く、全体としてのエネルギー効率が悪いとされています。 再生可能エネルギーをどれだけ効率的に利用できるかが課題となります。
技術的課題
合成燃料の製造には高度な技術が必要であり、特にCO2の回収と貯留(CCS技術)には課題が残っています。効率的で経済的なCCS技術の確立が求められており、これが普及の鍵となります。
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日本における実証プロジェクトとパートナーシップ
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の取り組み
NEDOは、日本のエネルギー技術開発の中核機関として、合成燃料の研究開発を推進しています。NEDOのプロジェクトでは、再生可能エネルギーを利用した水素生成とCO2を利用した合成燃料の実証プロジェクトが進められています。 このプロジェクトでは、商業化に向けた課題の洗い出しや技術的な改善が行われています。具体的には、CO2を原料とした液体合成燃料の一貫製造プロセス技術の研究開発が進められており、ガソリンやジェット燃料、軽油などの製造が可能です。
参照:NEDO「CO2からの液体合成燃料一貫製造プロセス技術の研究開発に着手」
トヨタとENEOSのパートナーシップ
トヨタ自動車とENEOSは、持続可能なエネルギーソリューションの開発を目指して協力しています。トヨタはその先進的な燃料電池車技術を提供し、ENEOSは合成燃料の製造と供給を担当します。このパートナーシップにより、両社はクリーンエネルギーの普及と持続可能なモビリティ社会の実現を目指しています。
三菱重工業とJERAの協力
三菱重工業とJERAは、持続可能なエネルギー技術の開発において協力しています。特に、二酸化炭素の回収と再利用技術に焦点を当て、効率的な合成燃料の生産を目指しています。このプロジェクトは、エネルギーの安定供給と環境負荷の低減を両立させることを目指しています。具体的には、石炭ボイラにおけるアンモニア高混焼技術の開発・実証を行い、温室効果ガスの排出削減に貢献しています。
海外のe-fuelプロジェクト事例
Haru Oniプロジェクト(チリ)
Haru Oniプロジェクトは、チリのパタゴニア地域で進行中の大規模なe-fuelプロジェクトです。ポルシェとシーメンスエナジーが中心となり、再生可能エネルギーを利用して水素を生成し、CO2と反応させて合成燃料を製造します。このプロジェクトは、2022年に13万リットルのe-fuelを生産し、2026年には5,500万リットル、2028年にはさらにその10倍の生産を目指しています。
参照:https://mf-topper.jp/articles/10001803
FlagshipOneプロジェクト(スウェーデン)
FlagshipOneは、スウェーデンのエーンヒェルツビークで進行中のe-fuelプロジェクトです。このプロジェクトは、再生可能エネルギーを利用して水素を生成し、CO2と反応させてメタノールを製造します。FlagshipOneは、年間5.85万リットルのメタノールを生産する予定で、将来的にはさらに大規模な生産を目指しています。
参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/shoyoka_wg/pdf/001_07_00.pdf
Arcadia eFuelsプロジェクト(デンマーク)
Arcadia eFuelsは、デンマークのボアディングボーで進行中のe-fuelプロジェクトです。このプロジェクトは、SasolとTopsoeの協力により、再生可能エネルギーを利用して水素を生成し、CO2と反応させて合成燃料を製造します。Arcadia eFuelsは、2026年に年間10万リットルのe-fuelを生産する予定です。
参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/e_fuel/shoyoka_wg/pdf/003_07_00.pdf
日本の合成燃料に対する課題と展望
コスト削減と量産化
日本国内での合成燃料の普及に向けて、コスト削減と量産化が大きな課題となっています。特に、再生可能エネルギーを利用した水素生成やCO2回収のコストが高いため、これらの技術の効率化とスケールアップが求められています。
規制とインフラ整備
合成燃料の商業化に向けて、関連する規制やインフラ整備も重要な課題です。現在、日本政府は合成燃料の利用に関する規制の見直しを行っており、将来的には合成燃料を活用したエネルギーシステムの整備が進むと期待されています。また、既存のエネルギーインフラを合成燃料に対応させるための投資も必要となります。
まとめ
合成燃料は、気候変動対策としての大きな可能性を秘めた新しいエネルギー技術です。カーボンニュートラルな特性を持ち、再生可能エネルギーを有効活用することで、持続可能なエネルギー利用を実現します。 しかし、コストや技術的課題の解決が必要であり、今後の研究開発と技術革新が鍵となります。合成燃料の普及が進むことで、より持続可能な未来が実現することが期待されます。
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